「動く森」の伝説のこと

セビトの南側はいくつかの島を有する大湖に面している。このうち最も小さく見える島は、大樹の根に巻き付いた浮き草や藻によりぷかぷかと水面を移動する植物の集合体である。大樹は千年以上前から存在すると言われ、ひび割れた樹皮は土のように柔らかく、これを苗床としてありとあらゆる植物が生えている。特にハーブやスパイス類が豊富なため、古くから多くの旅人が訪れ、種子を持ち帰るようになった。不思議なことに、この地で採取された種子はたった一粒でも、別の土地で植えると他の植物の呼び水となり、いつしか豊かな森になるという。そんな「動く森」の言い伝えを信じたヒトビトにより、植物の持ち去りが増え、また訪れるヒトの増加により踏みつけられた大樹が弱り始めたため、現在では、木道が整備され、島での種子や植物の採取は管理されている。

「世界地図の端から〜辺境の地セビト紀行〜(ブンジ・ゾ著)」

ヒメオドリコソウの森を探索する子らのこと

春の野の花の盛りは短い。

特にヒメオドリコソウなんか、今までどこにいたの?というくらい、急にわあっと盛り上がり、我が世の春ぞと歌ったかと思いきや、七日も経てばあっという間にいなくなってしまうんだもの、不思議な生きものよね。その点、ホトケノザは、春の野の花としては長生きな気がするなあ。

せっかくなので、ヒメオドリコソウの森を探索する角もちさんたちのラクガキを扉絵にしました。

下から見上げたら、どんな感じなんだろうか。

切れ端の物語「動く森」のこと

その昔、大地の緑はたった一粒の種子から広がったという。

戦災で故郷の森を失った子供が、種子を授ける者が棲むという離れ小島「動く森」へと渡り、種子を生み出す巨木を見つけ出した。

巨木は言う。種子の力は、島から出ると弱ってしまう。故郷の森を蘇らせたいのなら、島で育った花の子に種子を持たせ、無事送り届けよ、と。

子供は、世間知らずの花の子を連れ、故郷を目指す。

ーーー

「という言い伝えが、この島には残っているんだよ。」

「……それ、ただのタネ苗屋じゃないの?」


はい。というわけで、凡人が考える、どこかで一度読んだことがあるような物語を、それっぽいラクガキを添えて気まぐれに書き綴るカテゴリを設けました。その名も「切れ端の物語」。せっかくなので続くといいなと思います。

学者のラクガキのこと

必要な情報を集めて的確に調理する学者のラクガキ。情報を集めるために書物をあっちゃこっちゃ広げるので机の上は混沌としがち。手元のあかりを担う発光キノコちゃんたちも、書物の内容が気になるご様子。

魔力銀行のラクガキ

「お預かりしていた魔力ひと月分をお渡しする準備が整いましたので、3番窓口までお越しください。」という魔力銀行のラクガキ。

魔力は多かれ少なかれどなたもお持ちかと思いますが、ヒトによって満ち引きの差が激しく、安定しないため、必要な時に十分な力を発揮することができない場面が多々あるかと思います。わたくしたち魔力銀行は、あなた様の魔力をひと月単位でお預かりし、必要なときにいつでもお引き出しいただくことが可能です。ただし、時間外窓口での魔力のお預け・お引き出しには、手数料として黒プリンや赤ヨーグルトが必要です。

こういうちんぷんかんぷんなことを考えているときはとても楽しいです。

ラクガキとともに浮上する設定のこと

ラクガキをしているときは大抵、設定や物語が勝手に浮かんできます。

今回浮かんだ声は、こんな感じ。

「観賞用のネマガリダケなんて珍しい。うちの子も喜んでいるよ。」

つまり、子への贈り物として、器に盛られた土付ききのこをもらったヒトがいるのですな。

変な話ですが、書いてるわたしもそうした心の声を聞いて、「あ、そうだったのね。」となっています。

セビトのこと

古い街セビトには、そこかしこに大きな樹が生えている。地中深くに根を張る大樹は水を組み上げる役割を果たしており、土地の高低に関わりなく水道がわりに利用することができた。そのためセビトでは昔から「大樹に包まれて暮らすと豊かになる」と言われ、皆こぞって樹の根の隙間に住居や店をつくってきた。樹を長生きさせるため、極力傷つけないよう配慮した結果、大通りまで根や枝葉が飛び出しているが、自らの生命を維持してくれている樹に合わせて暮らすことこそ、住民としての矜持なのである。

「世界地図の端から〜辺境の地セビト紀行〜(ブンジ・ゾ著)」