チョウに頼られたスペシャルデーのこと

朝、ヒトがまだ少ない電車内に、さまよえるシジミチョウがいた。

「あっ」と思ったときには扉が閉まり、そのまま発車してしまった。チョウは、外に出ようと、まず風が吹いてくる方へ飛ぶが、そこは空調の吹き出し口で、強い風に押し戻されてしまう。続いて太陽の光に向かうも、ガラスに体を打ち付けて、ふらふらと床に落ちてしまった。

もう、おばちゃん(わたし)は気が気じゃない。傷ついたチョウを外に出す手段をあれこれ考えるが、走行中の車内でできることはほとんどない。どうしたらいいんだとやきもきしていると、なんとチョウの方から近づいてきて、わたしのズボンのすそにとまってくれた。

これはチャンスだ。わたしはひとり、大きく頷いた。「わかった、わたしにまかせておけ!」

よほど体力を消耗したのか、チョウは次の駅に電車がとまるまでじっと動かず、駅に降りるため立ち上がっても、そのままズボンにつかまってくれていた。

次の駅で電車がとまった。わたしはチョウがびっくりさせないよう、すり足で扉前まで移動し、ドアが開くとそお〜っと駅のホームに降りたった。すれ違うヒトのことなど気にせずに、ズボンのすそをぽんぽん叩き、チョウに「外に出たよ」と合図する。発車ベルが鳴り終わる間際にチョウはようやく飛び立ってくれたので、わたしも再び同じ電車に乗り込むことができた。

偶然とはいえ、生まれて初めて、チョウに頼られた、スペシャルな日だった。

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