とある鳥の絵のこと

どんな絵にも「力」や「味」がある。

昔、とある展覧会で「狩野派」の絵を見た。花鳥が描かれた絢爛豪華な屏風の片隅で、一羽の鳥が足をまっすぐに伸ばし歩いていた。しかし、関節の存在を感じない伸びきった足がいかにも不自然で、超素人のわたしでも「ほんものの鳥を見てないのでは?」と疑ってしまうような出来栄えだった。

わたしは、自分の中でその絵を「悪い例」と位置づけた。そして、鳥の絵や写真などをみたときに「やっぱり鳥はこうだよね、あの絵はなんだったんだ・・・」と、10年以上も前に観たその絵のことを、わざわざ思い出すこともあった。

今日も、なにかの拍子にその絵の話になって・・・ようやく気づいたんである。「気に入らない」と思っているはずの絵が、わたしのなかにしっかり根付いていることに。ほかにもたくさん絵を観てきたはずなのに、「鳥の絵」というキーワードで一番に思い浮かぶのは、大好きな伊藤若冲ではなく、その狩野派の不自然な鳥の絵なのだ。

関節のない不自然に長い足を元気よく伸ばして歩く鳥の姿が、いまも私の心に残っている。これはもう、むしろ、気に入ってしまったのではないか。

そうかもしれない。