「動く森」の伝説のこと

セビトの南側はいくつかの島を有する大湖に面している。このうち最も小さく見える島は、大樹の根に巻き付いた浮き草や藻によりぷかぷかと水面を移動する植物の集合体である。大樹は千年以上前から存在すると言われ、ひび割れた樹皮は土のように柔らかく、これを苗床としてありとあらゆる植物が生えている。特にハーブやスパイス類が豊富なため、古くから多くの旅人が訪れ、種子を持ち帰るようになった。不思議なことに、この地で採取された種子はたった一粒でも、別の土地で植えると他の植物の呼び水となり、いつしか豊かな森になるという。そんな「動く森」の言い伝えを信じたヒトビトにより、植物の持ち去りが増え、また訪れるヒトの増加により踏みつけられた大樹が弱り始めたため、現在では、木道が整備され、島での種子や植物の採取は管理されている。

「世界地図の端から〜辺境の地セビト紀行〜(ブンジ・ゾ著)」