バッタの触覚を戻すのこと

いつもの神社で手を清めていると、傍に、ボチャンと水に顔をつっこんだバッタがいた。思わず注目すると、なんだかぎこちなく、よたよたと後退りしている。訝しく思ってよく見ると、なぜか左の触覚が前ばねの間に挟まっていた。

このままでは具合が悪かろうと手をかざした途端、飛び退いたバッタ。当たり前だ。バッタに警戒されずに触覚に触れるなんて、できるわけがない。しかし、できるわけがないと分かっていても……やっぱり気になる。

ダメ元で「触覚、治すだけだから。触っていい?」と声をかけてみた。今度も逃げられるだろうと思ったが、不思議なことに、挟まれた触覚をそっとつまんでもバッタは動かない。はねの隙間を縫うように触覚を持ち上げる間もじっとしており、結局無事に元の位置に戻すことができた。

バッタの触覚を元の位置に戻した経験は初めてだった。