「よいこの国」
その国で生まれた子は、みんな、よいこでなければいけません。
なぜならその国はとても小さかったので、わるいこがひとりでもまざっていたら、たちまちわるい国になってしまうからだと、おとなたちは言いました。
おとなたちは、よいこのための法律をつくりました。
「前文 よい国をつくるには、みんながよいこでなければならない。 よいことはつぎのようなこのことをいう。
一、よいこは、よいこであることを誇りに思うこと。
二、よいこは、生まれた国を愛すること。
三、よいこは、おとなを尊敬すること。
四、よいこは、おとなの言うことをよく聞くこと。
五、よいこは、口ごたえをしないこと。・・・」
よいこのための法律は、毎日新しいきまりがふやされるので、全ての文字をはじめからさいごまで読むにはとても時間がかかりました。
よいこには、食べものも着るものも住むところもあたえられました。学校でたくさんのことを学んだあとは、たくさんお金を稼ぐ仕事をすることもできました。国を豊かにしたよいこは表彰され、そのよいこを育てたおとなには高い位があたえられました。
みんなは、がんばってよいこになりました。
わるいこは、わるいこを育てたおとなと一緒に牢屋にいれられ、食べものも着るものもあたえられませんでした。それはよいこにならず、また、よいこを育てなかったいましめなので、しかたのないことだと、おとなたちは言いました。
昔、牢屋があふれるほどのわるいこがたくさん見つかったことがありました。まさにその国が、わるい国になってしまうという危機でした。おとなたちは急いで、よいこのための法律に「よいこは、わるいこを見つけて、おとなに知らせること。」という決まりをふやしました。国が豊かになるようにがんばってもなかなかうまくいかないとき、よいこたちは、わるいこさがしをがんばりました。わるいこをわるいこだという証拠が見つからないときも、おとなはすぐによいこの言うことを信じてくれました。よい国をつくるため、緊急時にてまをはぶくのは、しかたのないことだと、おとなたちは言いました。
さて、よいこの国には、ひとりの王さまと、その孫がいました。おとなたちから、とてもすばらしいとほめられている王さまは、たったひとりで国のすべてを決めてきましたが、そろそろ国を孫にゆずろうと考えていました。
王さまは、孫に国のひみつを話しました。
「この国はとても豊かですばらしいが、おろかなよいこたちには、この国の本当のしあわせはわからない。おろかなよいこのなかには、お前に意見を言うものもいるだろうが、聞く必要はない。もっともらしく言葉をならべても、おろかなよいこたちは何も知らず、何も見えていないのだ。長年かけて、そうなるようにしてきたのだから。おろかものにまどわされたらこの国は、たちどころにわるい国になってしまう。この国をさらに強くたくましく豊かにするのはお前しかいない。わたしが生きている間にできなかったことを、お前がなしとげておくれ。大変な仕事だが、おろかなよいこたちはみんな、お前を愛し、感謝するだろう。」
孫は、王さまの言うことをなんでもよく聞くとてもよいこだったので、誇らしげに大きくうなづきました。王さまも安心してまかせることができました。
(続くかもしれない)