飛ぶのはヘタだが飛ぶカナブンのこと

夜、網戸の向こうから、ぶぶぶという羽音が聞こえて来た。見に行くと、カナブンらしき虫が、明るい室内へ向かって羽をばたばたさせている。(網戸があるので入れない。)

慌てて明かりを消すと、カナブンも方向転換し、夜道の方へ羽を広げた。

が。

足場が悪い場所で羽ばたくので、うまく体を浮かすことができない。ぶぶぶと羽を動かしてはバランスを崩してガラスにしがみつく、ということを繰り返している。もう少しよじ登ればよいのだが、ガラスで滑るのか、ビミョーに不安定な場所にしがみついたまま羽ばたこうとする。そしてまた、ずるっと滑ってしがみつく。つまり、飛ぶのが下手である。

以前、カナブンはおそろしく飛ぶのが下手だという動画を見たときは笑ってしまったが、目の前の必死な姿を見ると、不安と焦りが伝わってきた。

なんとかガラスの角度を変えて、カナブンの足場を整えると、カナブンもようやく落ち着き、ばっと羽を広げ……転げ落ちていった。(やはり、体は浮かなかった。)

カナブンは飛ぶのが下手である。しかし、飛んで生活している。それは切なく、愛おしい。